親権(しんけん)



  未成年の子に対する三種の保護のうち身辺監護と行為的監護とを行なう権利義務であり、

 父母のうちこれを行なうについて適任な双方または一方にこの権利義務を負わせます。

 父母が婚姻中ならば、父母の双方とも一応適任者とされ両者が共同で両者の未成年の

 子に対しこれを行ないます(親権の共同行使)。

 父母のうち一方に精神疾患などの親権行使の不適任事由があるときは、父母のうち

 一方のみがこれを行ないます。

 また、父母のうち一方が後見開始の審判を受けたり子に虐待を加えたりする者である

 ときは、その者は家庭裁判所により親権を喪失させられます(子に財産を危うく

 するような親権者であるときは、親権の前記二種のうち財産官吏にかかる

 第二種の行為的監護のみが喪失させれらます)。


  子が養子のときは、養親が親権者となります。

 父母が協議離婚をするときには父母の協議により父か母かいずれかの一方が親権者と

 なり、裁判離婚のときは裁判所がこれを決定し、子の出生前に父母が離婚する

 ときは子の出生とともに母が親権者となります。

 非嫡出子については母が親権者となり、父の認知があっても当然には父が親権者とは

 ならず、父母の協議によって父を親権者とすることに変更することができるものと

 なっています。

 父または母が親権者であるとき、子の利益のため必要のあるときは家庭裁判所に

 請求してこれを他方に変えることもできます。

 その他離婚などに際し親権者を父にするか母にするか協議が調わないときなど、

 すべて家庭裁判所に対する請求によりこれを決めてもらうことができます。

 親権者たる父または母にやむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を

 受け親権者たることを辞退することもできます。

 離婚に際し、親権を構成している二種の内容のうちの一つである身辺監護を親権者でない

 方の者がこれを引き受けることに決めることもできます(この者を監護者または

 監護権者といいます。家庭裁判所に決めてもらうこともできます)。

 親権者でありながら、二種のうちのもう一つの保護である行為的監護を部分的に行なう

 ことのできない場合が、いくつか規定されています。


  一つは、第三者が無償で子に財産を与えるについて(例えば、祖父母あるいは孫に)

 親権を行なう父や母にこれを管理させない意思を表示した場合です。

 この場合には当該第三者がその財産の管理者を指定することができ、その指定がなされ

 なかったときは、子の親族などの請求により家庭裁判所がその管理者を選任します。


  二つは、親権者と親権に服する子との間で利益が相反する場合です。

 数人の子に対し親権を行なう父母が、複数の子をそれぞれ法定代理する場合にも

 その複数の子の利益相反となることが発生します。

 このような利益相反行為となる行為的監護は親権者に行なわせず、その子のために

 特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しその特別代理人を相手にして父または

 母は法律行為をしなければなりません。

 親権者が数人の子に対し親権を行なう場合には、うち一方の子のために家庭裁判所に

 特別代理人の選任を求めて、自分は一人の子の親権者となって他の子のために

 選任された特別代理人と法律行為をしなければなりません

 (利益相反行為の禁止)。

 親権者が無償で親権に服する子に財産を贈与する場合には、利益相反となりませんので、

 親権者は、一面、自分個人という資格と、他面、子の法定代理人という資格で、

 結局はお手盛りの取引をすることが許されています。


  子が成年に達したときは、親権者は遅滞なく管理をしていた財産の計算をして子に

 その財産を引き渡さなければなりません。

 どのような計算書を作成しなければならないのでしょうか。

 収支の明細書の作成を必要とするのが、本来的であるはずです(保護関係を除いては、

 親と未成年の子との間の関係にあってもそれぞれに市民社会構成の独立人であり、

 他人間におけると等しい財産法の原理に従うべきだからです)。

 しかし、我が国の民法はその子の養育及び財産の管理の費用はその子の財産の収益と

 これを相殺したものとみなすといって、残存の元本のみを子に引き渡せば充分であり、

 子の財産から生じた収益は親権者に帰属するものとし(親権者収益権)、また他人の

 財産の管理については善良な管理者の注意義務が要求されているのに親権者が

 子の財産を管理するについては自己のためにする低い程度の注意義務で

 足りるものとしています。

 これは、子は親の付属物という旧思想の残存であり、保護関係外にあっては親と

 未成年の子との間の関係もまた相互独立性の原理の適用外ではないという

 法理の認識に欠けると評されるべきであり、法解釈上は、例えば子の

 財産から生じた収益残存額はこれまた子に引き渡さなければ

 ならないものと解釈すべきです(直近の有力説)。