罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)



  「法律がなければ犯罪はなく、刑罰もあり得ない」という思想を指します。

 これは、刑法の根本原則として、ドイツ刑法学の父フォイエルバッハ(Feuerbach)の

 有名な言葉によって表現されたものを、さらに簡略したものです。

 古くはイギリスの大憲章(マグナ・カルタ,1215年)に根源を有します。

 そこで刑法は「犯罪のマグナ・カルタ」だといわれています。


  日本語の「罪刑法定主義」という表現は本当に実質を表現し得ています。

 この名称の示すとおり、どういうことをすれば犯罪となり、またどの程度の罰を

 科せられるのかということを法令であらかじめ定めておかなくては、

 人を罰することは許されないというのがこの主義の実態なのです。

 「あらかじめ」ということは、罪刑法定主義という名称自体には必ずしも明示されては

 いませんが、これを法定することが行為に先立ってなされていることが要件であり、

 それが極めて重要なことなのです。


  専制政治の時代には、こういうことを「あらかじめ」定めておくことを要件とせずに、

 ある行為が行なわれてから後に、時の権力者がそれに気に入らないと思えば、

 後から法令を制定してでも、その行為を処罰するということをやってきました。

 これでは、どういう行為をすれば良いのか、人民には分かりません。

 正しいことだと思ってやったことを後になって「法律違反だ」「犯罪だ」と

 いわれても、いつ何時処罰されるかも分かりませんので、

 人民は安心して行為をなすことができません。

 まさに人権を保障すべき規定を設けなければならない

 事項なのです。


  日本国憲法は、これに関して法定手続の保障や遡及処罰の禁止などの

 規定を置いています。

 刑法では、あまりに当然のこととして、これに関して特段の規定は

 置いていませんが、明治時代から現在まで

 ずっと守られてきています。