法人に犯罪能力があるかどうかについては、見解が分かれています。

 大きく分けると、それを肯定する見解と否定する見解があります。


  法人の犯罪能力を否定する側は、

 ①犯罪は人の行為でありますが、行為というものは人の身体の態度ないし意思に
 
  基づくものなので、自然人だけが行為をなすことができるのであり、
 
  「身体」とか、「意思」のない法人に行為なるものはありません。

 ②責任がなければ犯罪とはいえませんが、責任というものは倫理的な非難なので、
 
  自然人についてのみ責任ということを論ずることができるのであり、
 
  倫理的な主体性をもたない法人については責任ということは
 
  問題にはなりません。

 ③現行法の刑罰の体系は、自然人でなければ執行できない生命刑や自由刑が

  中心とされ、罰金刑についてもそれを納付することができない場合に

  労役場に留置するとしていますので、この点からみても、

  法人の犯罪能力は否定しなければなりません。

 ④法人を罰しなくても、その機関である自然人を処罰すれば充分であって、

  機関である自然人の行為について、その自然人と法人の両方を処罰

  すると、一つの犯罪について二重に処罰することになります。

 ということなどをその理由としています。


  これに対して、法人の犯罪能力を肯定する側は、

 ①法人では、機関の行為が法人の行為であり、機関の意思が法人の意思ですので、
 
  法人にも行為や意思はあります。

 ②責任は、一定の心理的な状態に対する社会的な非難なのでありますので、
 
  法人がその機関である個人とは別の社会的な評価を受け、これに
 
  社会的に非難することは充分に意味のあることです。

 ③現行法の刑罰の体系の中にも、罰金刑や科料刑のように法人に対して
 
  執行のできるものもあり、法人の解散や営業の停止・制限・閉鎖など、
 
  いま行政処分とされているものを刑罰とすることもできますので、
 
  刑罰の体系ということは、法人の犯罪能力を否定する

  理由とはなりません。

 ④法人が利益を受けている場合に、機関である個人のみを処罰することは、
 
  正義の観念にも、正しい刑事政策の原則にも反し、機関である個人の
 
  行為は、個人としての行為の面と法人の機関として法人の行為を
 
  形作る面とがありますので、この両方を処罰しても二重の
 
  刑罰になるわけではありません。

 などということを、その理由としています。


  このほかにも、

 ①立法論としては、法人の犯罪能力を肯定する考えや

 ②行政犯についてのみ法人の犯罪能力を認める考えや、

 ③法人に対して、犯罪能力は別として、刑事責任は認めなければならない

 とする考えなどもあります。


  以前には否定説が多数派を占めていましたが、最近では肯定説も

 かなり有力となってきています。

 判例は、法人の犯罪能力を否定していますが、比較的最近の

 判例の中には、法人の犯罪能力を認めた趣旨とも

 取れないわけではないものもあります。