それだけで結果を引き起こすことのできる条件が二つ以上独立して

 作用した場合を指します。

 「二重の条件関係」とか「累積的な条件関係」とも称されます。

 例えば、AがBを殺害しようと思い、Cが飲むつもりでんでおいたコップの

 水の中に致死量の毒物を混入して立ち去った後で、こういう事情を知らない

 Bも、Cを殺害しようと思い、やはり、そのコップの水の中に、致死量の

 毒物を混入し、Cがこの水を飲んで亡くなってしまった、

 というような場合です。


  この場合に、「その行為がなかったならば、その結果は発生しなかったであろう」

 といういわゆる「条件関係の公式」をストレートに当てはめると、

 ①Aの行為とCの死という結果との間には、Aの行為がなくても、(Bの行為で)

  Cの死という結果が発生したはずなので、条件関係はありませんし、また、

 ②同じように、Bの行為とCの死という結果との間にも(Bの行為がなくても、

  Aの行為でCの死という結果が発生したはずなので)、条件関係はなく、

  AにもBにも殺人の既遂という責任を認めることはできず、せいぜい

  殺人の未遂の責任を認めることができるにすぎないことになりますが、

  果たしてそれで良いのか、という疑問が出てきます。


  この問題には、

 ①条件関係の公式の代わりに、「法則的な条件の公式」という公式を持ってきて、

  この公式をベースに置いて、これを考えていく立場や、

 ②条件関係の公式の代わりに「結果の回避の原則」とか「危険を高める原則

  などという概念を持ってきて、それをベースに置いてこれを考えていく

  立場などもありますが、我が国では、普通、条件関係の公式を

  ベースに置いてこの問題を考えています。


  条件関係の公式をベースに置いてこの問題を考えていこうとする立場からは

 (AとBとが独立に致死量の毒物を入れたという例についていうと)、

 ①Aの行為もBの行為もCの死という結果とは条件関係がなく、AもBも

  殺人の未遂である、とする考え、

 ②Aの行為もBの行為もCの死という結果と条件関係にあり、AもBも

  殺人の既遂である、とする考え、

 ③Aの行為だけがCの死という結果とは条件関係がなく、Aは殺人の

  既遂であるがBは殺人の未遂である、とする考え

 ④場合を分けて、

  (イ)Aの毒物とBの毒物が同時にCに作用したということが証明されたときに
   
    だけ、Aの行為もBの行為もCの死という結果と条件関係があり、
   
    AもBも既遂であるが、

  (ロ)AかBかどちらかの毒物が作用したことが証明されたときには、その
   
    作用したことが証明された方の行為が結果と条件関係があり、その
   
    行為をした者は殺人の既遂であるが、もう一つの方の行為は結果と
   
    条件関係がなく、その行為をした者は殺人の未遂であり、

  (ハ)Cの死という結果がどちらの毒物で引き起こされたのか証明されない
   
    ときには、どちらの行為も結果とは条件関係がなく、AもBも
   
    殺人未遂であるとする考えが出されています。


  このうち、第一のどちらの行為も結果とは条件関係がないとする考えは、

 普通、条件関係の公式をストレートにこの問題に当てはめ、第二のどちらの

 行為も条件関係があるとする考えの多くは、条件関係の公式を修正して、

 この公式に「いくつかの条件のうち、その一つを除いて考えてみると

 その結果は発生しなかったであろうという場合には、その条件の

 どれもその結果と条件関係にある」という公式

 (トレーガーの公式)を加えて、

 結論を出しています。