規範の保護の範囲の理論、あるいは規範の保護目的の関係とも称されている
もので、行為者の過失責任を制限するため、ドイツで登場した理論です。
これは、過失犯において行為と結果との間に一般人の経験上、社会的に
相当な因果関係が存在し、更に注意義務に違反した行為があったとしても、
その行為者が、たとえ注意義務に違反せずに慎重に行為をした場合でも、
当該結果が引き起こされたであろうと思われる場合には、その結果は
行為者に帰属されないとする、客観的帰属の理論に伴って
発展したものです。
例えば、心臓に疾患を持つ患者が、自己の病状を歯科医に告げて
抜歯を依頼したとします。
しかし、歯科医は内科医の診察を受けさせずに全身麻酔をかけて
抜歯したため、患者の心臓が麻酔の負担に耐えられずに
死亡してしまいました。
ところが、たとえ事前に内科医が患者を診察したとしても、おそらく
心臓の疾患は発見できず、麻酔による死の結果を、内科医の
診察のために要する数日間、伸ばすに過ぎなかったで
あろうという事例などがこれに当たります。
このように、過失犯において行為者が注意義務に違反して結果を発生させたと
しても、その注意義務を規定した規範が、侵害された法益の保護をも目的と
していたのか銅かを検討し、規範の保護目的の関係が否定され、その範囲
の外にあると認められれば、行為者にその結果を帰属させないとする、
過失責任の広がりを制限するための法理です。
ここに挙げた事例に於いては、歯科医は麻酔をかける前に内科医に
患者を診察してもらう注意義務があります。
また、それをしなかったために死亡したという因果関係も、
相当性もあります。
しかし、歯科医の注意義務は、危険を伴う抜歯を成功させる目的の
ためであり、患者の生命を数日間延ばす目的ではないので、
規範の保護目的の外にあり、死の結果に対する
責任はないとするものです。
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