刑法何条に違反する行為をした━ということだけでは、まだ犯罪として

 処罰されません。

 昔は、いやししくも法規に触れた行為をすれば、たとえ、頑是がんぜない子どもであっても、

 ただそれだけで罰せられましたし、更にまた自分は何もしなくても、

 一家一族の誰かが大罪を犯すと、それに連座して

 処罰を受けることすらありました。


  しかし、近代の刑法はそうではありません。

 たとえ法規に違反した行為をしても、その違反行為者が、年齢その他の点につき、

 社会人として充分法律の要求に従って行動することができたはずだ、

 法を犯そうとしなければ、侵さないこともできたはずだという行為者

 その人についての年齢的・心理的・そして道義的な要件が

 備わらなければ、その違反行為を犯罪として

 処罰することはできません。


  つまり、違反行為をしたことについて、社会から非難を受けるに

 値する行為者その人についての用件が責任と称されます。

 責任のない者の行為は犯罪になりません。


  では、どういう場合に責任がないといえるのでしょうか?


  刑法はまず、行為者が刑法上の責任を負えるだけの能力を持っている者

 (責任能力者)であることを要件とします。

 つまり物事の是非善悪を判断し、その判断に従って行動できる能力を

 持つ者が責任能力者であるとし、この能力がない者を責任無能力者、

 この能力の低い者を限定責任能力者とします。

  

責任無能力者は、

14歳に満たない者

心神喪失者━精神障害などによって判断能力が無に近い者

(通常人でも泥酔中、こういう状態になることもあります)

 
 限定責任能力者は、

心身耗弱者━判断能力が著しく減退しているが、

心身喪失ほどではない者 

  

  責任無能力者の行為は処罰されませんし、限定責任能力者の場合は

 刑が減軽されます。


  責任には、なおこのほかに、故意・過失という心理状況、適法行為の

 期待可能性という事情が要件となります。