民事訴訟は、私人間の紛争を国家の裁判権によって解決する制度であるから、

これを利用するには、利用するに値する正当な利益ないし必要性があることが

必然的に要請され、特に、これによって紛争の有効適切な解決が

できるものでなければなりません。

すなわち、裁判所に訴えを提起して、その訴えの中味である請求の当否について

審理して判決を下してもらうためには、

そうするだけの正当な利益ないし必要性がなければなりません。

この訴えの正当な利益ないし必要性を、訴えの利益といいます。

これを欠く訴えは、内容に立ち入って審理裁判する実益がないので、

本案判決をする必要なしとして、却下されることになります。


訴えの利益は、裁判所が取り上げるべき事件とそうでない事件とをふるい分ける

役目を果たすものであり、訴訟要件の一つとして位置づけられます。


訴えの利益が認められるためには、まず、原告の請求の内容が本案判決を受けるに適する

一般的な資格を有するものであり、

かつ、原告がその請求について判決を求める現実の必要性があることが必要です。

狭い意味で訴えの利益というときは、この現実の必要性、

すなわち権利保護の利益のことを指します。

更に、原告・被告がその請求について訴訟を追行し本案判決を受ける資格を

有していることも必要であります。


訴えの利益は、様々な局面で問題となりますが、

今日では、訴え一般について共通に問題となる訴えの利益と、

個々の訴えで問題になるそれとに分けて考察されるのが通例であります。


各種の訴えに共通の訴えの利益としては、まず、請求の内容が裁判によって処理するのに

適する具体的な権利・法律関係の主張であることが挙げられます。

民事訴訟は、請求の当否につき法律を適用して判断し、紛争を解決するものであるから、

この請求は、法令を適用することによって解決し得べき

具体的な権利関係の存否についての主張でなければならず、

したがって、単なる事実上の主張は原則として許されないし、

また抽象的な法令解釈の当否もその対象とすることはできません。


この訴えの利益に関しては、近時、本尊安置のための生本堂設立に寄付を行った原告が、

本尊は偽者であるから寄付には要素の錯誤があるとして寄付金の返還を求める訴えを

提起したという事案につき、

この訴えは法律上の争訟には当たらず裁判所の審判の対象とはなり得ないとし、

訴えの利益がないとして訴えを却下した最高裁判例-板まんだら事件-があります。


次いで、法律上起訴が禁止されていないこと、すなわち、二重起訴の禁止、

再訴の禁止などに当たらないことが挙げられます。

更に、当事者間に訴訟を利用しない旨の特約のないこと、

訴えの濫用に当たらないこと、通常の訴え以外の特別の手段が法定されており、

しかもこれのみによるべきものとされている場合でないこと、などが挙げられます。


個々の訴えについて問題となる訴えの利益では、

とりわけ、確認の訴えにおける「確認の利益」、将来の給付の訴えにおける

「あらかじめその請求をする必要」が重要であります。

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