抵当権(ていとうけん)


債権者が物を取り上げずにこれを債権の担保とし、債務者が弁済をしないときには

その物から優先的に弁済を受ける権利をいいます。


質権と並んで約定担保物権であり、金融を得る手段に用いられますが、質権の場合には

債権者が目的物を取り上げてしまうのに対し、抵当権では、目的物を設定者の手に

残してその利用に委ね、いざという場合に初めてその効果を発揮する点で、

質権と大きな相違があります。


このために、農地や工場などのように、設定者がそれから収益を上げて弁済に充てる

ような物を担保とする場合に、特に重要な役割を発揮することになります。

ただ、このように目的物が設定者の手に留められることから、第三者に対して

抵当権が設定されているのだということを告知させる方法が取られなければ

なりません。

そこで、抵当権は、登記または登録のような、一定の公示方法を備える物で

なければ設定できないことになっています。


我が国の民法では不動産がメインで、そのほか地上権・永小作権も抵当権の目的と

なり得ますが、動産は抵当権の目的とはなりません。

しかし、経済の発展とともに、その範囲は次第に拡大され、財団抵当・動産抵当

(工場抵当法、自動車抵当法など)という特殊な抵当権の分野が

形成されるようになりました。


抵当権は、抵当権者と抵当権設定者との間の設定契約によって成立しますが、

登記をしなければ第三者に対して抵当権の存在を主張できません。

登記をしておけば、抵当権設定者がその後目的不動産を実行することができます。

また、抵当権の設定されている不動産について地上権や賃借権を取得しても

原則として抵当権者に権利を主張できず、したがって競売の結果所有権を

取得した者から明け渡しを請求されることになります。


1つの不動産に、2つ以上の抵当権を設定することもできます。

その場合には、登記の前後に従って順位が定まり、後順位の抵当権者は先順位の

抵当権者が競売代金から弁済を受けた後でなければ、弁済を受けることが

できません。

例えば、債務者の不動産に甲さんが100万円の債権につき一番抵当権を、乙さんが50万円の債権につき二番抵当権をそれぞれ有している場合に、不動産が120万円で競売されたとすれば、競売代金から甲さんは100万円、乙さんは20万円をそれぞれ取得します。

抵当権で担保される債権の額は、質権の場合と違って制限されます。

すなわち、元金が担保されることは別として、利息は満期となった最後の2年分に

限られます。

これは、利息も無限に優先弁済を受けられるとすると、後順位の債権者や

無担保の債権者が思いがけない損害をこうむることがあるからです。


債務者が弁済期に弁済を行なわないときに、目的物から優先的に弁済を受けられるのが

抵当権の本質的な効力です。

その方法は競売の手続によるのが原則ですが、抵当目的物を直接債権者の所有としたり

ほかの売却方法を決めたりする抵当直流ていとうじきながれ(質の場合の流質にあたります)の約束も

有効とされています。