会社は法人であるので、会社とその社員(株主)個人は法律上別個の人格者であり、

会社の資金と社員個人の資金あるいは会社の法律関係と社員個人の法律関係は

別個であって両者を混同してはなりません。

ところが、この法律上の区別を利用して会社形態を濫用する場合があります。

例えば競業避止義務を負う取締役が、別に会社を設立してその社員となり、

この会社に競争営業を行わせることによって、

実質的に競業避止義務を免れてしまうような場合がそれです。

また会社といってもまったく形式だけで実質は個人企業であり、

会社と社員の資金も混同しており、株主総会や取締役会なども開かれないまま会社が

運営されている場合もあります。

このような場合に問題となる会社の法人格を一時的に否認して、

その背後にある実態関係に即した法律効果を認めようとするのが

法人格否認の法理です。

この法理はアメリカ、ドイツなどで展開され、わが国でも多くの学説が

この法理を支持したことで、最終的に判例においても、

会社の法人格が濫用される場合と、法人格がまったく形骸化している場合について、

この法理が適用されることが認められています。

わが国では個人営業や同族営業の実態を伴った株式会社が多いことから、

この法理の適用によってそのような企業の債権者が保護されることになり、

その限りこの法理が一定の役割を果たしてきたことは否定できません。

ただどのような場合にこの法理が適用されるのかについて要件が

あまりはっきりしておらず、

この法理を適用する以前に既にある法律規定を適用することによって

債権者保護が図られる場合もあるので、最近では

法人格否認の法理について再検討をなすべきであるとの

学説も見受けられます。