弁済の提供(べんさいのていきょう)



  債務者が弁済のために債権者の協力を待たずに、まず自らできるだけのことを行なった

 上で債権者の協力を求めることをいいます。


  弁済の提供の方法は、一般的には、取引慣行と信義誠実の原則で補っていくことになりますが、

 我が国の民法によれば、

 ①原則としては、債務の本旨に従って現実にこれをなすことを要します。
 
 これを現実の提供といいます。
 
 例えば、金銭の持参債務は金銭をもって支払場所へ出向かなければ

 なりません。

 
 ②例外として、債権者が、前もって受領することを拒んだとき、または弁済に
 
 ついて債権者の行為が必要なときは、弁済のためになし得るだけのことを
 
 準備し、債権者に通知して協力を求めるだけでも構いません。
 
 これを口頭の提供といいます。
 
  例えば、家賃値上げを巡る紛争のため今月の家賃を家主が受け取らない場合に
 
 家賃の準備をしているので受け取ってもらいたいと通知をしたり、債権者の
 
 指定する場所へ商品を送付する場合に、商品発送の準備をしたうえで、
 
 送付先の指定を請うようなケースです。
 

  しかし、受領拒絶の程度が極めて強固で受領拒絶が明確な場合でも、

 なおかつ債務者は弁済の提供を要するかという問題が生じます。

 この点、最高裁判所の大法廷は弁済の提供は必要ないとしましたが、

 その後、弁済の提供を要するとひるがえす判決もあり、まだ明確に

 決定されておりません。


  なお有効な提供があると債務者は、それ以降、債務不履行から生ずる一切の

 責任を免れるし、場合によっては債権者は受領遅滞となります。