事項について裁判し得ないことは、民事訴訟の一般原則ですが
(弁論主義→民訴法87条)、民法は、一方で時効の完成により
権利の得喪を生ずる旨を規定するとともに、
他方でその利益を受けるかどうかを当事者の自治・選択にゆだね、
裁判は当事者の援用がなければ時効により裁判することは
できないものと規定しています。
判例は、これを時効についても弁論主義が及ぶことを確認したものと
受け止めたうえ(訴訟上の攻撃防御説)、用し得る当事者は、
時効により直接利益を受ける者に限るとし、
所有権の所得時効ならその権利を取得し得る者、
債権の消滅時効であれば、債務者、連帯債務者、保証人のように債務を
免れる者は援用できますが、物上保証人や担保物の
第3取得者(例→抵当権付不動産の買主)のように、
他人のために目的物に限度で責任を負う者は
援用できないとしていましたが、近ごろでは、
このような有限責任者にも援用者があるとしています。
契約は、守られるべきであり、義務のあることがはっきりすれば履行すべきです。
だから債務のあることを承認し、後日の支払いを約して
延期証を差し入れした後で、時効を援用するのは、
信義則に反し許されません。
また、真相を究明してもらい義務があれば履行したいという考えは、
民事司法制度の目的に適合的であり、相手方はもとより
第3者の利益も害されません(判決の効力は、
訴訟当事者とその承諾人にしか及びません)。
だから、時効援用後にこれを撤回することもできます。
学説の多くは、時効についても弁論主義が及ぶことを前提としつつ、民法所定
の時効の援用を、時効の利益を享受する旨の意思表示とし、
時効の完成により援用権を生じ、その行使により
権利の得喪を生ずると説き(停止条件説)、
また、近ごろでは時効が権利の得喪に関する証拠に代わる役割を果たす点に着目し、
時効の援用を法定証拠の提出と説くものもありますが(証拠法説)、
具体的な帰結の面では判例はほとんど異りません。
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