要素の錯誤

意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効ですが、表意者に重大な過失があ

れば無効を主張できません。

法律行為の要素とは、法律行為の内容中重要な部分を意味します。したがって、法律行為

の機縁に過ぎない動機に錯誤があっても、要素の錯誤にならないのを通例としますが、

その動機が表示され、法律行為の内容の重要部分となったときは要素の錯誤になり

ます。しかも、その表示は明示に限りません。判例は、このように解し、学説の

多くもこれを支持してきましたが、近ごろでは、一歩を進め、動機を含め意思

表示の過程に重要な錯誤があれば、法律行為の要素の錯誤になりますが、相

手側が善意無過失のときは無効の主張は許されないと説く立場が有力に

なってきています。いずせにせよ、効力の有無を決するほどの重要な

錯誤か否かは、行為の類型に応じ異なります。

人に関する錯誤-売買や金銭貸借であれば、だれと契約を締結するかは、重要でないの

が普通です。したがって、AとBを取り違えて(人の同一性の錯誤)契約をしても要素

の錯誤にならないのが通例です。同じことは、人の属性(社会的地位、弁財資力等)

に関する錯誤についてもいえますが、例外はあります。負債に苦しむ兄を救うため、

債務者と思って不動産を売却し、その債権と代金債権とで相殺することにしたと

ころ、買主は、債権者ではなかったといった場合がそれです。

他方、人の同一性や資格が重要な契約もあります。保証契約では、主債務者がだれである 

かが、また、訴訟の委任契約では、受任者の弁護資格が重要です。したがって、Aから

頼まれたBが、借用証書に保証人として署名押印したところ、Aがその借用証書をC

のために流用した場合や、弁護士と誤認して事件を委任した場合などは、要素の

錯誤になります。

②物に関する錯誤-不動産売買では、一番にどの土地・建物が売られるかは重要で、物の

同一性に関する錯誤は、要素の錯誤になります(例→売主はA地を売るつもりで、買主

は隣接するB地を買うつもりで、A地を指示する契約書にサインします)。また、不動

産に限らず、物の売買では、範囲・数量・価値に関する錯誤は、特に著しい場合(例

→良質の処女鉱と思って買ったところ、堀り荒らされた粗悪鉱だった場合)を除い

ては、要素の錯誤にならないし、売主の所有物と思って買ったところ、他人の所

有物だった場合(権利の帰属に関する錯誤)も、買主の保護手段として、善意

取得、債務不履行責任、売主の担保責任などが用意されており、要素の錯誤

にならないのが通例です。

要素の錯誤があっても表意者に重大な過失があったときは、無効を主張しえません。

株の売買を業とする人が、株式の譲渡を制限した会社の定款を調べなかった場合

などが、重過失の例です。

要素の錯誤

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