「不定期刑」 とは 「定期刑」 に対応する概念であって、自由刑の宣告に


 ついての原理の一つとなっています。




  すなわち、我が国の刑法は、法定刑ないし、これに修正を施した処断刑の範囲内で

 刑ごとに自由刑を言い渡す場合には、裁判でその刑期を確定し、例えば3年の

 懲役というような宣告刑を下す建前になっています。

 これを 「定期刑」 といいます。


  ところが一般に 「不定期刑」 と称されるのは、裁判において自由刑の刑期を

 上記のように具体的に確定せず、後日計の執行の段階に入り、

 その成績をみたうえで釈放の時期を決定する制度です。


  これには二種類のものがあります。

 その一つは 「絶対的不定期刑」 で、裁判において自由刑の種類は定めるが、

 その期間についてはまったく限定しない場合をいいます。

 しかしこのような場合においても、刑法総則における自由刑の一般的期間の規定、

 並びに各則における法定刑の一定の限度が示されている関係上、これらの制限

 範囲を出ることはできませんので、この意味においては絶対的不定期

 ではないということができます。

 もう一つは 「相対的不定期刑」 であり、裁判において、一定の長期 (最高限)

 および短期 (最低限) を定めて言渡すが、その後計の執行の段階に入り、

 その成績がどうであるかをみたうえで、釈放の時期を決定する

 性質のものをいいます。


  現行の日本の刑事裁判は、成人による犯罪に対し、前述の二種の不定期刑の

 いずれをも採用せず、すべての定期刑の言渡しをしています。

 ただ例外は少年法であり、それは原則として相対的不定期刑主義に

 則っています。

 しかし、その実施の成績に至っては必ずしも良好とのみ判断することの

 できないものがあるように思われます。


  現在世界各国のうちで、成人の犯人に対し、不定期刑言渡しの制度を採っているのは、

 ニューヨーク州、イリノイ州などのアメリカ合衆国の多くの州、およびアメリカ

 連邦刑法のようなもので、ほかの北米の諸州、諸国の刑法は、特に常習

 累犯者等に対して、概ね定期刑主義に出、ただ定期刑と併用して、

 予防拘禁、保安観察等の保安処分を定期的または不定期的に

 認めているに過ぎません。


  ところが、我が国の昭和15年の刑法改正仮案91条ないし95条には、既に常習犯人

 (もちろん成人も含みます) に対する不定期刑の言渡し制度が規定されて

 いましたが、戦後、刑法改正作業が復活され、その総決算として公表

 された昭和44年の 「改正刑法草案」 58条においては 「常習累犯」

 なるものを規定し、「六月以上の懲役に処せられた累犯者が、更に

 犯罪を犯し、累犯として有期の懲役をもって処断すべき場合において、

 犯人が常習者と認められるときは、これを常習累犯とする」と規定し、

 そして同法59条1項において、「常習累犯に対しては、不定期刑を

 言い渡すことができる」ものとし、この 「不定期刑は、処断刑の

 範囲内において長期と短期とを定めてこれを言い渡す。

 ただし処断刑の短期が一年未満であるときは、

 これを一年とする」 と規定するに至りました。


  しかし、この案に対しては、現在賛成派と反対派が真っ向から対立しています。

 議論の中心点は、少年犯の場合と異なり (少年法は、受刑者として、専らこれを

 教育改善する立場を採っているので、これを是認するとしても)、成人犯の

 場合には、一定の犯罪という行為を原因として科する刑罰に、保安刑的な
 
 考え方から、犯罪性が治まるまで、刑罰をもって遇しようとすることは、

 人権擁護の見地からみて、果たして的を射たものであるのか

 どうかという点にあります。


  いずれにしても不定期刑制度は、刑罰の執行制度が犯人改善的に

 充分完備をみたうえでなければ、実際に業績を挙げることは

 困難であろうと考えられています。